AI活用表彰

物流の業界誌FreightWavesが、2026年7月15日にシカゴで「AI Excellence in Supply Chain Awards」という表彰を行いました。応募は60件で、前年の2倍以上になっています。

部門は下記の2つに分かれています。

  • AI Solution Providers … AIのツールを作って売っている会社に対する表彰
  • Operational AI Integration … 自分の事業でAIを使っている運送会社・倉庫会社・フォワーダー

受賞は全部で15社です。自動運転トラックの運行(Atlas Energy Solutions)や構内ヤードの自律運用(YMX Logistics)のように、大規模な設備を伴うものもあります。ただしこの記事では、設備がなくても始められる事務作業に注目していきます。

なお、ここに出てくる数字は各社の発表をFreightWavesが伝えたもので、第三者が検証したものではありません。

任せていた3つの仕事

① メールの仕分けと、請求書の突合(NFI社)

NFIは物流を一括で請け負う会社(3PL)です。

3PLには、荷主や運送会社から毎日大量のメールが届きます。荷物の所在の確認、納品日の変更、請求金額の相違。担当者はこれを1通ずつ読み、誰が対応すべきかを判断して転送します。請求書の突合は、運送会社から届いた請求書の金額が契約した運賃と合っているかを1件ずつ確かめる作業です。

NFIはこの2つを事務部門でAIに任せました。発表されている数字は下記のとおりです。それぞれ対象の業務が違う点に注意してください。

  • 事務部門 … 週100時間以上の工数削減
  • 荷物の追跡業務 … 正社員4人分に相当する工数削減
  • 研修時間 … 約20%短縮

あわせて、輸送計画のシミュレーションにもAIを使っています。こちらは荷主ごとに輸送費の5〜10%の削減余地を見つけ、ある荷主では年間60万ドルの削減につながったと報告されています。

② 納品書類の読み取り(Uber Freight)

Uber Freightは運送の仲介業者です。

荷物を届けると、受け取った側がサインした受領書が発行されます。この受領書が請求の根拠になりますので、内容を人が読み取ってシステムに入力し、不備があれば運送会社に連絡する必要があります。1件あたりは数分の作業ですが、件数が多いため合計すると大きな工数になります。

Uber Freightは、この読み取りを「DocAI」という仕組みに任せました。画像認識、文字認識(OCR)、大規模言語モデルを組み合わせたもので、船荷証券、受領書、荷役作業の領収書を扱います。

  • 処理量 … 受領書を週2万件以上
  • 読み取りの精度 … 99%超
  • 請求の食い違い … 50%減

書類に不備が見つかったときの動きも変わりました。これまでは運送会社に連絡が届くまで12〜24時間かかっていたものが、読み取りと同時に分かるようになっています。受領書は請求の根拠になりますので、差し替えが早く済むほど、入金までの時間も短くなります。

③ 棚卸しの手作業(Gather AIの導入先)

ここからは、AIサービス提供者として受賞したGather AIが公表している導入先の数字です。

倉庫の棚卸しは、人が棚の前に立って数を数える作業です。高い棚はリフトで上がる必要があり、時間がかかるうえに危険も伴います。Gather AIは、この作業をドローンに置き換えました。棚の間をドローンが飛び、カメラで撮った画像から在庫を読み取るという仕組みです。

  • GEODIS … 在庫カウントの手作業が年4,400時間 → 800時間
  • Langham Logistics … パレット起因の緊急対応が1日20〜30件 → 1〜2件
  • NFI … 倉庫の業務生産性が5倍

Gather AIは全体の数字として、在庫精度99.9%、投資の回収は最短6か月と説明しています。なお3社目のNFIは①で紹介した会社で、バックオフィスと倉庫の両方でAIを使っていることになります。

中小企業での活用方法

ここで出てきた事例をそのまま日本の中小企業に当てはめて活用していくことはできません。ここに出てきたのは、いずれも国際的に事業を展開している大手企業です。ドローンによる棚卸しは月額制での提供が中心ですが、費用は倉庫の広さと棚の高さで変わるため、個別の見積りが必要になります。

ただし、「どのような仕事をAIに任せているか」に注目すると、活用できそうなポイントが見えてきます。

  • 届いたメールをAIが読んで、担当に振り分ける
  • 請求書と伝票をAIが突き合わせて、金額が合っているか確かめる
  • 受領書の内容を、AIがシステムに打ち直す

これらの業務は、たとえ少人数の倉庫会社であっても日常的に発生している仕事です。処理する量に規模の違いはあれど、作業の中身に大きな違いはありません。大手が「週100時間」を取り戻したところを、自社なら「週3時間」かもしれない。それでも月に換算すれば12時間になります。

どこから試していけばいいか

上の3つのうち、いちばん導入コストが低いのは請求書と伝票の突合です。

紙やPDFで届いた請求書と、自社の伝票を並べて、金額と数量が合っているかを確認させる。間違っていてもその場で気づけますし、元の書類が手元にあるので確かめることもできます。

次にメールの振り分けをおすすめします。振り分けを間違えてしまうと対応が遅れかねないので、最初のうちは振り分け先の候補を出させるだけにして、実際にメールの振り分けは人が対応する形から始めてください。

在庫のカウントは、ドローンやカメラの設備が要ります。事務作業のほうで手応えを確かめてから検討する順番をおすすめします。

気をつけること

① 数字の出どころは各社の発表

この記事の数字は、各社が自分で発表したものです。第三者が検証した数字ではありません。導入前の状態がどうだったのか、何を含めて「100時間」と数えているのかは公表されていません。

自社で試すときは、他社の数字を目標にしないでください。まず自社で1週間やってみて、実際に何分減ったかを測るほうが確実です。

② 事例の出どころを確かめてください

「AIで◯時間削減」という記事を検索すると、その大半はAIツールを売っている会社のブログです。悪意があるわけではありませんが、うまくいった例だけが載ります。

そこで、記事を読むときは誰がその記事を出しているかを先に見てください。ツールを売っている会社なのか、業界誌なのか、導入した会社自身なのかによって、参考にできる記事であるかを判断することができます。

③ 個人のアカウントで、取引先の情報を扱わないでください

請求書や伝票には、取引先の社名と金額が入っています。AIに入れる前に、いま使っているプランと設定を確認してください。確認の手順は別の記事で整理しています。

次の一歩

  1. 先月の請求書と伝票を、5件だけ用意する
  2. AIに両方を渡して、金額と数量が合っているかを確認させる
  3. 自分で突き合わせた結果と見比べる
  4. 合っていた件数と、かかった時間を記録する

特に重要なのは4番目で、ここを飛ばすとAIを導入して満足してしまう結果となります。自社の数字が出て初めて、続けるかどうかを判断できます。

出典