チャットとの一番の違い
チャットは、会話の画面の中で答えを返してくれるAIです。文章を考えてもらう、一般的な知識を聞く、といった用途で力を発揮します。
一方、Claude CodeやCodexは、自分のパソコンの中にあるフォルダを作業場所にして、そこで実際に手を動かすAIです。ファイルを読み、必要な部分を書き換え、コマンドを実行して結果を確かめるところまでを、一連の作業として進めます。
この違いは小さいようで、使い方を大きく変えます。チャットでは「この文章を直してください」と言い、直された文章を自分でファイルに貼り直します。Claude CodeやCodexでは、「このフォルダにある見積書の一覧を集計して、結果を表にまとめて」と頼むと、フォルダの中のファイルを開いて、集計し、表を保存するところまでをAIが進めます。AIに渡す材料を毎回コピーして貼り付ける必要がなくなる、という点が、最初に感じる一番大きな変化だと思います。
チャットにもメモリ機能やプロジェクトの機能があり、一般論の知識は今でも非常に強いものです。ただ、この記事で扱う違いは知識量の差ではありません。指示をどこに残すかとどこで作業するかの2点が違うのです。
以下では、この2点を仕組みとして順に説明します。
指示がファイルに残る
Claude CodeもCodexも、会話が始まる前に読み込まれる「指示のファイル」を持っています。Claude CodeではCLAUDE.md(Claude CodeはAGENTS.mdも読みます)、CodexではAGENTS.mdと呼ばれるファイルです。中身は普通の文章で、「取引先への連絡はこの形式で書く」「請求書の番号はこの規則で付ける」といった約束事を書いておくことができます。
Claude Codeの公式ドキュメントによると、新しい会話を立ち上げると、毎回新しい文脈・記憶から始まります。
その代わりに、CLAUDE.mdとAIが自動で書き留めるメモ(自動メモリ)が、毎回の会話の最初に読み込まれます。
Codexでも、AGENTS.mdは実行を始めるときに読み込まれ、パソコン上のCodexの設定フォルダから、いま取り組んでいるプロジェクト全体のフォルダ(一番上の階層)までの間に置かれたファイルが、階層ごとに順番にまとめられて、AIへの指示になります。
ここで大事なのは、指示が自分の手元のテキストファイルとして存在することです。チャットでも同じことを頼めますが、指示や文脈を覚えているかどうかはサービス側の仕組みに任されています。
手元のファイルであれば、どの指示ファイルが読み込まれているかは後から確認でき、古くなった内容は自分で直せます。
一方で、ここには注意点もあります。公式ドキュメントでは、これらの指示は「強制的な設定」ではなく「文脈」として扱われると説明されています。つまり、指示を書けば必ず守られる、というわけではありません。具体的で短い指示ほど守られやすいので、「丁寧に対応してください」より「取引先への連絡は、件名に案件番号を入れ、本文の冒頭に結論を書く」のように書くほうが効果が出やすくなります。
ファイルを直接読み書きする
チャットは、基本的にあなたが渡した情報を材料にします。Claude CodeやCodexは、作業フォルダの中のファイルを自分で開いて読みます。Excelの表、Wordの文書、テキストのメモ、Webサイトのソースコードなど、フォルダに入っているものが材料になります。
そして、読んだものを書き換えることもできます。Codexの公式ドキュメントでは、Codexは作業フォルダの中でファイルを読み、編集し、コマンドを実行できると説明されています。「この見積書の合計欄が間違っていないか確認して、間違いがあれば直して」と頼めば、対象のファイルを開き、計算式を確かめ、直したところまで進めてくれます。
作業場所の違いは、言い換えると「AIが自分の机に座っている」ということです。
チャットは、相談を受けて窓口で答えを返す相談役のような存在です。
それに対して、コーディングエージェントは、資料を広げて作業する担当者に近いものです。
作業ごとに許可をとらせることができる
手元で作業するAIにファイルを触らせるのは、少し不安に感じるかもしれません。そこでClaude CodeとCodexには、作業の範囲を区切る仕組みがあります。
Claude Codeには、どこまでAIに任せるかを決める「権限モード」があります。手動で承認するモード(default)では、フォルダの中のファイルを読むことは確認なしで行われます。
一方で、ファイルの書き換えやコマンドの実行の前には、「これを実行してよいか」と画面に確認が出ます。確認画面には、AIが何をしようとしているかが表示され、許可するかどうかを自分で選べます。現在の既定のモードは使い方によって変わることがあるため、使い始めるときに設定画面で確認するのが確実です。
Codexには、作業の範囲を区切る「サンドボックス」という仕組みがあります。
プログラムのソースコードを管理する仕組みが入ったフォルダでは、既定で作業フォルダの中の編集などは自由に行い、フォルダの外に出る操作や、インターネットに接続するような操作の前には確認を求める設定になっています。経理や見積のような、ふだんの書類フォルダ(ソースコードの管理の仕組みが入っていないフォルダ)では、最初は読み取り専用から始まる場合があります。
この仕組みがあるので、初めて使う方でも「どこまで任せるか」を段階的に決められます。
最初は読むだけ、次は下書きを作るだけ、慣れてきたら書き換えまで、というように範囲を広げていくのが自然な進め方です。
実際の使い方
ここまでの仕組みを、具体的な動きとして想像できるように、一つの例で追ってみます。以下は説明のための架空の例で、特定の製品の動作を保証するものではありません。
ある建設会社の事務所で、月末の作業をAIに頼んだとします。
まず、社長が「今月の見積書フォルダを確認して、承認待ちのものを一覧にして」と頼みます。Claude CodeやCodexは、指示のファイルに書かれた「見積書の番号の付け方」「承認の状態を示す言葉」を読んだうえで、フォルダの中の見積書を開いて状態を確かめます。結果は、フォルダの中に一覧表として保存されます。
次に、「その一覧から、3日以上承認が止まっているものを抜き出して、催促メールの下書きを作って」と頼みます。ここでAIは、一覧を見てメールの下書きを作ります。この会社では、送信はAIにさせず、下書きを社長が確認して自分で送る使い方にしています。
最後に、社長が今回決めた約束事(例えば「催促は3日目までに一度だけ」)を、指示のファイルに一行書き足します。次回から、AIはその約束事を読んで作業します。次の月末には、同じことを一から説明しなくても済むようになります。
この例で大切なのは、AIが勝手に全部を終わらせているわけではないことです。一覧を作るところ、下書きを作るところは任せ、送信と最終判断は人が行っています。任せる範囲を自分で決めて、少しずつ広げていくという使い方です。
claude code、codexは指示をしながら育てていくもの
正直に言うと、初めて触るときは、チャットより使いにくく感じると思います。フォルダを作り、どこに何があるかを整理し、指示のファイルを書き、確認画面で許可を出す。チャットで一言聞けば済むことに比べると、準備の手間があります。
それでも、この準備には理由があります。チャットは、一般論や知識の面で非常に強い存在です。会社の事情をプロジェクトなどに登録して使うこともできますが、どの情報をどう扱うかはサービス側の仕組みに沿うことになります。
Claude CodeやCodexは、指示のファイルという手元の形で、自分の仕事のやり方を少しずつ積み重ねていける道具です。最初は何もできないように見えても、指示を書き足し、やってほしいことを伝えるたびに、あなたの会社の流儀が指示のファイルに残っていきます。その積み重ねが、次の作業をより少ない言葉で任せられる力になります。
チャットを窓口の相談役、コーディングエージェントを作業を任せる担当者と捉えると、この違いが分かりやすいと思います。どちらも役に立ちますが、自社の手順を積み重ねて任せられるのは確実に後者です。
任せられる3つの仕事
では、実際にどんな仕事を任せられるのか。Ryoさんの実務を例に、大きく3つに分けて整理します。
秘書業務
細かなタスクの整理、スケジュールの調整の下準備、取引先への連絡文の下書きが、よく任される仕事です。たとえば、日々のメモから今日やることを一覧にする、複数の候補日を時間の空きから抜き出して、連絡文の下書きを作る、といった作業です。送信や予定の確定は、人が最後に確認して行います。
リサーチ業務
市場の動向を調べる、簡単な調べものをまとめる、といった仕事です。調べた内容を、出典とともに一覧にまとめてフォルダに保存することもできます。ただし、出典の内容が正しいかは、必ず人が確かめる必要があります。この点はチャットで調べものをするときと変わりません。
開発
WebアプリやExcelの代わりになる簡単な業務ツールを作る、業務の決まった手順を自動化する、といった仕事です。作業の手順がはっきりしているものほど形にしやすく、指示を育てるほど、同じ種類のツールを作るときの手間が減っていきます。
3つの仕事に共通するのは、一度伝えた約束事を、次も使えるように残せることです。最初の一回は準備が必要ですが、その準備が次の仕事の土台になります。
実践するなら
いきなり仕事全体を任せる必要はありません。まずは、いつも自分でやっている作業の中から、一番手間がかかっているフォルダを一つ選んでみてください。そのフォルダの中身を「読んで一覧にまとめる」ことだけを頼んでみると、チャットとの違いを体で感じられると思います。
そして、その時に出てきた約束事を、指示のファイルに一行だけ書き足してみてください。次に同じことを頼んだとき、説明が一つ減っていることに気づくはずです。その小さな変化が、この使い方の手応えになると思います。
出典
- How Claude remembers your project(Claude Code 公式ドキュメント) https://code.claude.com/docs/en/memory
- Configure permissions(Claude Code 公式ドキュメント) https://code.claude.com/docs/en/permissions
- Permission modes(Claude Code 公式ドキュメント) https://code.claude.com/docs/en/permission-modes
- AGENTS.md in Codex: Overview(OpenAI Codex 公式ドキュメント) https://learn.chatgpt.com/docs/agent-configuration/agents-md
- Agent approvals and security(OpenAI Codex 公式ドキュメント) https://learn.chatgpt.com/docs/agent-approvals-security